~旭side~



彼女に贈った言葉の中に、幼さという荒さはあったかもしれないけれど、本当じゃないことなんて、なにひとつなかった。

それでもその言葉の中に、今となって響の心を縛っているものがないか心配になる時がある。

不器用でもいい。強くなくてもいい。

ありのままの自分でいいんだよって、強く言ってあげればよかった。


田舎の空は広い。見上げると青々としてる色がよく見渡せる。そんな広大な景色の中心で俺たちはせっせと中腰で田植えを行っていた。

「もう、本当に、手作業きっつい!」

長い髪の毛をおだんごに結び、えんじ色のジャージを着ている早坂が大声で叫んでいる。
同じく高校の指定であるジャージを身に纏い、俺は冷静に田んぼの中を進む。

「だから来なくてもいいって言っただろ」

「だってさ、旭ひとりでやれるわけないじゃん。そもそも田植えなんてやったことないんでしょ」

「早坂はあんの?」

「いやいや、農家なめないで。うち畑の他に米もやってるから、田植えなんて毎年の恒例行事だよ」

たしかに十五センチほどの稲を植えていく手つきは慣れている。

ここはいつも野菜を分けてくれる横田のじいちゃんの田んぼだ。田植えの途中で機械が故障して、途方に暮れているところをたまたま俺が通りかかった。

じいちゃんは機械を運ぶために業者を待っているというので、『だったらその間、残りの稲は手で植えといてあげるよ』なんて、軽い気持ちで言ってしまったことがこの状況の発端というわけだ。

早坂はペディキュアが剥がれるからと家から長靴を持ってきて、俺のぶんもあるよと言ってくれたけれど、裸足で田んぼに入りたかったので断った。

抜かるんだ土は地上で見るより深くて、簡単に二十センチ以上も足が埋まる。感触はドロドロというよりヌメヌメしている。

最初は気持ち悪いと思ったけれど、今はひんやりとしてる土の中が気持ちいい。

三、四本の稲束を地道に植えながら、徐々に足を取られることなくバランスが掴めるようになってきていた。