旭と一緒に見守ってきた花壇に花が咲いたのはセミの声が聞こえ始めてきた初夏のことだった。

燦々と照り付けている太陽の下で咲いている花にカメラを向けて、彼は隣で写真を撮っている。


「そのカメラって、先生のじゃなかった?」

以前彼が部室の棚から取り出していたカメラと一致していた。


「そう。先生から借りたんだ」

「高価そうに見えるけど、よく貸してくれたね」

「勝手に堅物な人だと思ってたけど、話してみたら意外と気さくだったよ」

旭はそう言って目を細めている。きっとカメラを貸してくれたのは彼だからなんじゃないかと思う。旭は人の(ふところ)に入るのが上手くて、すぐに好感を持たれる人だから先生たちからも可愛がられている。

「それ、フィルムカメラだっけ」

「うん。響も撮ってみる?」

返事をする前にカメラを渡された。写真はスマホでしか撮ったことがないから、カメラを持つのも初めてだ。

しっかりした重量感がありながらも、なんだか落としたらすぐに壊れてしまいそうで、大切に扱わなくてはいけないという意識になっていた。

「ここのファインダーを覗いてみて」

彼に言われるがまま、カメラの上のほうにある小窓に目を近づける。

「なんにも見えないよ?」

「ここに左右に回せるリングがあるんだけど、これで撮りたい被写体に合わせてピントを調整するんだよ」

「どうやってやればいいの?」

「このリングの回りに数字があるだろ。小さいほど狭い範囲で写真が撮れて、数字が大きいほど広い範囲でピントが合うようになってる」

「……なんか花はちゃんと写ってるけど、背景がぼけてるよ」

「単体を撮る時はそれでいいよ。写したい主人公を決めるって感じで」

……写したい主人公。なんて素敵な言葉なんだろう。絶対に旭しか言えない台詞だ。