「あの時みんなが言ってたんだよ。市川さんだけ旭くんのことを独り占めしてズルいって。きっと旭くんは優しいからひとりだった市川さんのことを放っておけなかったんだろうね」

「………」

「ちょっと、あんた旭くんのこと好きだったからって直球すぎ!」

「だってさー」

なにも言い返せない代わりに、ホームにアナウンスが届いた。私は逃げるように、さっさと到着した電車に乗り込む。

女子たちはある程度聞きたいことも言いたいことも口にできたのか、追いかけてくることはせずに別の車両に乗っていた。


あの頃、彼に想いを寄せていた人は数えきれないほどいた。

もちろん一緒にいたいと望む人も。

けれど、旭はほとんどの時間を私にくれていた。

それがどれほど贅沢なことだったのか、今のほうが強く身に染みている。


彼は私のことをすごいと言ってくれた。

自分の心に素直なところを褒めてくれた。

旭に認めてもらえたことが誇らしかった。
 
でも、どうして?

なんで旭はあんなにも私のことを見てくれていたのだろうか。

やっぱりひとりぼっちだったから放っておけなかっただけ? 

そこに同情という気持ちがあったのかなかったのかは、私には判断できない。

本当は私に対してどう思っていたのかな?

彼の時間をあれだけもらっておいて、私はなにひとつ聞きたかったことは言葉にしていないって今さら気づいた。