「響ってさ」
「なんで急に名前で呼ぶの?」
「俺も最初に女子の名前を呼ぶのは、響がいいと思って」
今までこんな感情は芽生えたことがない。
同級生、クラスメイト、部活仲間。そんな繋がりの他にもなにか欲しいと思ってしまった。
「べつに呼び方なんてなんでもいいけど」
「じゃあ、俺のことも旭って呼んでよ」
「……まあ、呼ぶ時があれば」
その返事は前向きではなかった。いきなり距離を詰めすぎただろうか。
けれど俺は『三浦』と呼ばれるたびに『旭』と訂正するようにした。その面倒なやり取りに根負けしたのか、次第に響は名前で呼んでくれるようになった。
それがどんなに嬉しかったか、俺の言葉の引き出しでは足りないほどの喜びだったことを彼女は知らない。