「親御さんに本当の気持ちを言ったらよかったのに」

俺も市川に来てほしかった。

みんなで話していても、彼女が後から来るんじゃないかって、しきりに入口ばかりを気にしていた。

「でも、お父さんが張り切って予約してくれたから」

きっと彼女なりに気を遣ってしまう部分があるんだろう。でも親睦会に見向きもしてくれなかっただけに、今回クラスの打ち上げに来たかったと思ってくれたことだけで俺は嬉しかった。

「それで、さっきからなにしてんの?」

市川は小雨が降っているというのに、手に持っている傘を花壇のほうに傾けている。

「だって、ほら」

視線の先には、小さな芽があった。それは先月に種を撒いた場所だ。

「雨に濡れることを気にしてんの? だったら大丈夫だよ。小さな芽でも土の中ではちゃんと根を張ってるから雨には負けない」

「ううん、そうじゃなくて」

「……?」

「せっかく頑張って外に顔を出したのに、雨じゃ可哀想だと思ったから」

「可哀想?」

「誰だって最初に見上げるのは、青空のほうがいいでしょ?」

胸をぎゅんと掴まれた感覚がした。

そんなふうに思える人が他にいるだろうか。

人から冷めていると思われがちの彼女はきっと、自分以外のものの気持ちを敏感に察している。だからこそ体育祭の労いとして予約までしてくれたお父さんの気持ちも断ることができなかったのだろうと思う。