灰色の空からぽつりぽつりと雨が降る。乾いたコンクリートに水玉模様ができる頃には、グラウンドで練習していた運動部員たちも校舎へと駆け込んでいた。

そんな中で、屋根もない裏庭の花壇に市川の姿があった。

「打ち上げ、ずっと待ってたのに」

先週行われた体育祭。優勝はおろか学年最下位という残念な結果ではあったけれど、担任の奢りで焼肉屋に連れていってもらった。

順位はどうあれ、クラス一丸となって頑張ったことに変わりはなく、みんなで『お疲れ』と言ってジュースで乾杯した輪に、彼女だけがいなかった。

「……その日は家族で外食に行ったから」

体育祭では保護者観覧席が用意されていた。

親が来るなんて恥ずかしいと邪険にする生徒も多いけれど、市川の両親は揃って応援に来ていた。

彼女の種目は綱引きだけだったけれど、両親は開会式から閉会式までずっといて、市川のことを微笑ましそうに見ていたのが印象的だった。

「じゃあ、市川は家族で打ち上げしたんだ」

「……まあ、そうだね」

嬉しいことのはずなのに、彼女の返事はどことなく歯切れが悪い。

「外食、楽しくなかったの?」

「そういうわけじゃなかったけど……」

けど、の後に続きがありそうなのに、市川は言いづらそうに口を結んでいた。

「もしかして、クラスの打ち上げのほうに来たかった?」

市川は無言だった。なにも言わない代わりに、心が透けて見える。

少しずつ会話を重ねていく中で、お父さんと血の繋がりがないことをぽつりと漏らしたことがあった。体育祭に来ていた様子からすると関係は良好に感じられても、彼女の心では違うのかもしれない。