田畑に立っているカラス避けの案山子(かかし)が麦わら帽子を被っていて、思わずスマホを向ける。

……が、腕を掲げた瞬間に、胸の辺りが急に苦しくなった。

俺は慌てることはなく、ゆっくりと鈍い箇所を手で擦った。

この町に引っ越してきた理由はいくつかある。その中に俺が生まれながらに持っている喘息ということも大きく関係があったけれど、今はその他にも体を(むしば)んでいる病気が存在している。

それが発覚したのは、引っ越してすぐのことだ。

山をひとつ越えたところにある病院に喘息の薬を貰いにいき、初診だからと喘息の重症度を調べるために肺の検査をした時だった。

『肺に影が見られます。念のために胸部のレントゲンも撮り、詳しく調べましょう』

医師から勧められるままに精密検査をしたところ、俺は肺の構造が少しずつ壊れていく病気にかかっていることがわかった。

治すための治療として手術は必須。その方法は影がある右肺の切除を行うというものだった。