「ニャーン」
未央が追いかけた猫も二年前と同じ色と模様をしていた。もしかしてあの時の猫だろうか。
「可愛いね」
妹が頭を撫でようと手を出す。「ダメだよ」と注意する前に、猫が未央へと寄っていった。
この頭を押し付けてくる感じ。間違いない。私がひとりで神社に来ていた時に仲良くなった猫だ。
私と同じ匂いがするのか、猫は警戒するどころか、未央に懐いていた。
「あ、見て! 小さい猫しゃんもいるよ」
「え?」
視線をずらすと、たしかにそこには子猫の茶トラがいた。
「……あんた、お母さんになったんだね」
「ニャン!」
「私のこと、覚えてるの?」
猫は紹介するように子猫を口に咥えて連れてきてくれた。あの頃のまま、しだれ桜の木の下がお気に入りのようで、今もここに住みついてるようだ。
「お花がピンクできれーだね」
未央が瞳を輝かせて桜を見上げている。
気づくと私は、風に吹かれている桜にスマホを向けていた。
……カシャッ。
綺麗に撮れたかはわからない。
でも今、私はちゃんと桜を綺麗だと思えている。
その心ごと、彼に写真を送った。
ねえ、旭。
あの頃、きみの瞳に私はどう映っていたのだろう。
もしも十四歳の私がきみになにかを与えることができていたのなら。
ふたりで過ごした時間がまだ輝かしいものであるのなら、どうかその私だけを覚えていてほしい。
きみの思い出の中にいる私が、今もきみにとって美しいものでありますように。