それから部活の時間になり、私たちは中庭にいた。三浦が植えた種はまだ芽を出していないけれど、成長記録になるかもしれないと、彼は毎日スマホを向けている。

「さっきはありがとうな」

結局立候補はしたものの、三浦の代わりの選手は別の人が務めることになった。

「お礼なんて、べつにいい」

本当に走らされたらどうしようかと思っていたから安心した。まあ、もし私になってしまった時にはやるしかないと、半分は腹をくくっていたけれど。

「でも、あんなふうにみんなが笑ってくれるとは思わなかった。なんていうか、今はちょっと清々しいよ」

おそらく彼は自ら人気者になることを望んだわけじゃない。けれど三浦には自然と人を統率する力があるから、否応なしに中心人物として立たされる。

これはもう、天性というか一種の才能だから仕方ないけれど、私からすれば無理をしてると感じる部分もある。

「三浦はさ、カッコつけすぎなんだよ」

「そうやって、はっきり言ってくれるのは市川しかいねーよ」

「っていうか、なに? 今、また私のこと写真撮らなかった?」

「うん、撮った」

「本当やめて。怒るから」

「いいよ、怒って」

「は?」

強く言い返しても、彼は笑っている。

三浦と関わる前は、普通に授業を受けて、適当に行事に参加して、静かな学校生活を送っていた。

けれど今は心も表情も目まぐるしいくらいに忙しい。

その日常を実はひそかに楽しみ始めているなんて、きっと彼はまだ気づいていないだろう。