家を出ていつもの電車に乗り込んだ。混雑してる車内では掴まる場所もなく、カバンを両手で抱えてじっとしていた。
鼻をかすめるのは整髪料や香水と、ありとあらゆるものが混ざり合っている匂い。
乗り物酔いなんて滅多にしないのに、なんだか今日は気持ち悪い。
ハンカチで口元を押さえて耐えていたけれど、我慢できずに途中で電車を降りてしまった。
間髪いれずに車内へとなだれ込む人混みに入れる気がしなくて、私は後退りをする。電車は私を置いて発車していった。
早起きしてお弁当まで作ったのに、学校には間に合わない。
結局うまく立ち回れたつもりになっても、こうしてぼろが出る。
今の私には空回りという表現がぴったりだ。
「響。今日遅刻だったけど、どうしたの?」
一限目の休み時間。友達が机に寄ってきた。
「ちょっと電車に乗り遅れちゃって」
あのあと胃の不快感を我慢して次の電車に乗ったけれど、走る元気はなくて、ホームルームに間に合わなかった。
「そうだったんだ。あ、響がいない時に話してたんだけど、今日の放課後またチーズティー飲みにいかない?」
「え……」
私はわかりやすく瞬きを繰り返す。
「他にも種類あったし制覇したいねって、話してたんだ!」
あまり得意ではないと思った味を、みんなは気に入ったようだ。きっと、好きな人は好きなんだろう。ただ私には合わなかったというだけで、チーズティーを否定してるわけじゃない。
「ごめん。今日は妹の迎えがあって」
断るためではなく、本当のことだった。