「市川んとこって、三人家族だっけ」
「来年は四人になるよ。お母さんのお腹に赤ちゃんがいるから」
「え、マジか! じゃあ、姉ちゃんになるんだな」
感慨深く言った言葉を、市川はとても複雑そうな表情で受け止めていた。
「……三浦は兄弟いる?」
「うちも一人っ子だよ」
「そっか。……お姉ちゃんってさ、なにをすればいいんだろうね。なんか全然実感が湧かないんだ」
地面に向かって呟いた瞳は、少し寂しそうだった。
「あんまり気負わなくてもいいんじゃねーの。実感なんて後から付いてくるよ」
「三浦はお母さんとふたり?」
「そう。父さんは気づいたらいなくなってた」
「………」
「あ、悪い。暗い雰囲気にしたいわけじゃなくて……」
考えてみれば、家族の話を誰かに話したのは初めてだ。もちろん今まで聞かれることはあったけれど、表面的な受け答えしかしてこなかった。