しばらくすると、石段の上に鳥居が見えてきて、その奥には立派な拝殿も窺える。石灯籠が続く参道を進むと、一本のしだれ桜が視界に入ってきた。
「すげえ……」
あまりの美しさに息を呑む。
垂れ下がる桜はそよ風に揺られて、まるで鈴のような音を奏でていた。桜は学校の近くにも植えられているけれど、一本でこんなにも存在感のある桜は滅多にない。
「ニャア」
先ほどの茶トラ猫は桜の木に体を擦りつけながら、日向ぼっこをしていた。もしかしたら、ここを住みかにしてるのかもしれない。
そんな猫に市川が躊躇なく手を伸ばした。野良猫は警戒心が強いはずなのに、どういうわけか慣れたように、頭を撫でることができている。
「え、まさか市川が飼ってる猫?」
「違う。でも顔見知り。この神社はうちの近くだからよく来るんだ」
だから石段もなんだか軽々と上っていたんだ。神社に参拝しに来てるのかと問うと、彼女はただのさんぽだと答えた。