外に出て俺はさっそく、空に浮かぶ鱗雲や草花の周りにいた紋白蝶をスマホに収めた。
「市川はなに撮った?」
「ポスト」
「え、なんで?」
「なんかポストって遠くから見ると顔に見えない? ほら、受け口がふたつあるでしょ。それが目で、その境目が鼻筋みたいだなって」
たしかに言われると見えなくも……ない。
「ふ、やっぱ市川って面白いな」
微笑みながら和んでいると、一匹の茶トラ猫が俺たちの横を通りすぎた。猫はどこか目的地があるように颯爽と歩いている。
「なあ、あの猫追っかけてみようよ」
「え、ちょ、ちょっと……!」
彼女のことを無理やりに巻き込んで、俺たちは猫の後に付いていった。猫は神社の石段を軽い足取りで上っていく。
「ねえ、先に走っていったのに、なんで私より遅いの?」
「……ハア……うるせえ」
神社の石段はおよそ五十段あり、息切れしてる俺とは違って市川は涼しい顔をしていた。
「そういえば三浦って体育もほとんど見学だよね」
「俺、喘息持ってるから」
「ふーん」
喘息持ちと言うと大抵の人が心配するけれど、彼女は気持ちがいいほど反応が薄かった。