「なに、お前。向こうに好きな子でもいんの?」
「………」
「早坂とデキてるんじゃなかったんだ」
「早坂とはただの友達だし」
「まあ、お前が誰と恋愛しようと俺が口を挟むことはしないけどさ。なにか困ったことがあったらすぐ言えよ」
「うん」
先生は俺の〝秘密〟を知っている。その安心感からなのか気の緩みと同時に胸がズキッとした。
【今日は少し帰るのが遅くなるかも。晩ごはんはなにか自分で作って食べてね】
放課後。母さんからメッセージが届いていた。母さんは山を越えた先にあるスーパーのレジ打ちをしている。人手不足だと嘆いていたので、残業でも任されてしまったんだろう。
「ねえ、旭。みんないつものとこに寄っていくって。一緒に来るでしょ?」
「うーん」
「ちょっとみんな! 旭が渋ってるよ!」
早坂が大声で呼び掛けると友達たちが悪い顔をして寄ってきた。もちろんこれは強制連行のサインである。
俺たちの〝いつもの場所〟とは、駄菓子屋の一角にあるもんじゃ屋だ。最初はなんで駄菓子屋の中にもんじゃが食えるところがあるんだろうと不思議に思っていたけれど、一昔前はそういう店がこの町以外にもたくさんあったそうだ。
「旭、東京の子と連絡とってんだろ?」
座敷に上がり、もんじゃを突っつきながら、ひとりの友達が言ってきた。話の出所は知れている。隣にいる早坂に目を向けると、悪びれる様子もなくツンとした顔をしていた。