朝のホームルームが終わって、一時間目は体育。「三浦。今日も記録係よろしくな」と、担任からペンと紙を預けられた。

体育は基本的に見学で、こうして記録係を頼まれることは珍しくない。

ピピィィーとホイッスルが鳴ると、マラソンの授業が始まった。コースは学校の周りの山道を一周。距離にして五キロある。

「じゃあ、旭。行ってくるね!」

なのに、早坂を含むクラスメイトたちは嬉しそうに走っていく。子供の時から山を駆け回っていたというみんなにとって、五キロなんて憂鬱でもなんでもないようだ。

「あいつら熊よりも体力あるよな」

隣で先生が冗談まじりに揶揄している。先生の名前は稲田(いなだ)壱也(いちや)

担任であり、体育教師でもある。年齢は二十八歳。早坂同様に引っ越してきた時から世話になっていて、この町になくてはならない稲田商店の息子だ。

「先生ってさ、東京行ったことある?」

「あるもなにも、向こうの大学で教員免許取ったし」

「愛知じゃなかったんだ」

「東京で取ったほうがカッコいいっていう田舎丸出しの考えだったんだよ」

噂によると、先生は昔、手のつけようがないほどの不良だったらしい。学生時代は金髪でバイクをふかしながら畦道を走りまくってたって、町の人から聞いた。