~旭side~
いつも夢に見る響は後ろ姿ばかりだ。
今の彼女のことが知りたくて手を伸ばすけれど、いつも触れる寸前で目が覚める。
どんな顔をしているのか、笑っているのか、怒っているのか、苦しんでいるのか、なにもわからない。
俺はなにひとつ、十七歳の響を知らない。
「おはよう!」
玄関のドアを開けると、早坂が立っていた。元気よく挨拶はしてきたものの、顔は昨日と同じで膨れっ面のままだ。
「キレてんなら先に学校行けばいいだろ」
自転車を用意しながら言うと、彼女は怒ったようにカバンをカゴに放り投げて、そのまま荷台へと跨がる。つまりこれは後ろに乗せていけということだ。
「あら、旭くん。環ちゃん。おはよう」
「ふたりとも朝から仲良しだな」
自転車を漕ぎ出すと、すぐに近所の人たちに会った。すれ違うたびにみんなが声をかけてきて、早坂は愛想を振りまいていたけれど、人目がなくなるとまた不機嫌に戻っていた。
「いいだろ、別に。俺が誰と電話したって」
どうやらまだ昨夜のことが許せないらしい。ちゃんと東京に住んでることまで話したのに、なぜか早坂の機嫌は直らない。
「だって、今まで連絡取り合う人なんていなかったじゃん。なんで急に電話なんてするようになったの?」
「俺からかけたんだよ」
「だからなんで!」
「そう強く聞かれても困る」
話したかったからという理由以外、説明のしようがない。
「……その子、可愛いの?」
「うん、美人」
「もう!」
素直に答えると、早坂に背中を叩かれた。「いてーな!」と、言い返しても知らん顔でそっぽを向いている。
……たく、なんなんだよ。本当に。