『あ、また電話してるし!』
『な、なんでお前うちに』
『昨日旭が家に来ていいって言ったんでしょ』
『そうだけど……』
彼の部屋に出入りする女の子がいる。
考えてみればあの頃はまだ中学生で色恋話をしてた人もいたけれど、高校ほど盛んではなかった。
私が十七歳になったように、旭も同じ年齢になっている。彼女がいても、なんの不思議もない。
「邪魔したら悪いからそろそろ切るね。おやすみ」
『え、響……あ』
彼女が誤解しないように、一方的に電話を終わらせてしまった。
胸の痛みを無視して後ろを振り返ると、展望デッキにいた人たちは入れ替わり、はしゃいでいたカップルもいつの間にかいなくなっていた。
それから自宅に着く頃には九時を過ぎていた。静かに家に上がると、リビングからお母さんが出てきた。
「どこに行ってたの?」
腕を組ながら険しい顔で問われた。
「……友達と遊んでた」
「今日は早く帰ってきてってお願いしてたわよね?」
お母さんの背後には散らかっているおもちゃが見える。おそらく片付ける暇もないほど、未央がまた暴れたのだと思う。
ちゃんと早く帰るつもりでいた。だけど私にも付き合いがあって、家のことばかりを優先できないことだってある。