あの時、彼は自分の心に素直なところがすごいって言ってくれた。

素直がなんなのか今もよくわからないけれど、たしかにあの頃の私は自分の気持ちを無理やり曲げたり、言いたいことを喉の奥に押し込めたりはしなかった。

そんな背筋が伸びていた私はどこに消えちゃったんだろう。

「楽しいよ、学校」

声だけは気丈に振る舞った。

『そっか。なら、よかった』

安心した表情が目に浮かぶ。今の私のことなんて旭は知らなくていい。知られてしまったら、私のほうがきっと悲しい。

「そっちは相変わらず友達は多いの?」

『町中の人が友達みたいなもんだよ』

「そんな町あるの?」

『あるんだよ』

どんな景色の中で彼は毎日過ごしているのかな。きっと私の知ってる旭のまま、たくさんの人たちに囲まれているんだろうと思う。

「旭が幸せそうでよかった」

心で呟くはずだったのに、つい声として出ていた。

『名前、やっと呼んでくれた』

完全に無意識だったけれど、彼はとても嬉しそうな声をしていた。