……プルルル、プルルル。
彼女と繋がるコール音。それが六回目の時に『はい』と小さな声が届いた。
「あ、俺だけど……今なにしてる?」
たくさん喋りたいのに、初歩的な言葉しか出てこない。
『……とくになにも』
「今、家?」
『うん、部屋』
響の声はつねに一定だから、怒ってるとか冷たいとか勘違いされやすいけれど、彼女の喋り方は二年前と変わらない。
「電話、出てくれてありがとうな」
『……出ないとまたかかってくると思ったから』
「俺ってそんなイメージ?」
『うん』
たしかに強引なところがあることは否めないかもしれない。
「響は今日学校でなにを――」
『なんか鳴いてる』
「え?」
彼女は無言になって、なにやら音を拾おうとしている。俺も耳からスマホを離してみると、黒いシルエットになっている木々からホーホーという鳴き声がしていた。
『……もしかしてフクロウ?』
「ううん、キジバト。そっか。そっちでは聞かないもんな」
俺も初めて聞いた時、フクロウがいると思った。それを響のように口に出したら、田舎だけどさすがにフクロウは生息してない、なんてみんなに笑われたことが懐かしい。
「俺、今岐阜に住んでて……って言ったよな。引っ越しが決まった時に」
『うん、聞いた』
詳しい住所がわかったら連絡するなんて言っておきながら、そのまま月日だけが経過してしまった。