瞳の中に捉える時間がいつもより長いおかげで、彼女の顔をじっくり見ることができる。

前々から感じていたけれど、市川はやっぱりとても美人だった。

おまけにさっぱりとしたショートカットもよく似合っている。

もっと愛想をよくしたらモテるだろうに、彼女は媚びないどころか、近寄りがたい雰囲気をむき出しにしている。

さらに『いい人って疲れない?』なんてはっきり言ってきたりするところが、俺にとっては面白い。

だってそんなことを言う人は市川くらいしかいないから。

「なあ、ここって幽霊出そうじゃない?」

部室にはもうひとつ扉がある。暗室と書かれているその部屋は黒いカーテンに覆われていて真っ暗だった。

「たとえ幽霊がいても見えないから関係ないよ」

「わっ!」

「………」

「驚けよ、少しは」

やった俺が恥ずかしくなるほどの無反応だ。なんとか彼女の気持ちを揺さぶってやろうと、俺は色々と質問をしてみた。

好きな食べ物は、嫌いな食べ物以外。嫌いな食べ物も、好きな食べ物以外。最近笑ったことはないけれど、笑いそうになったことはゆで卵を一口で食べようとしても食べられなかったことだそうだ。

「じゃあ、いつもはなにを考えてる?」

「そんなの覚えてない。今は早く帰りたいなってことだけ考えてるよ」

「ふっ、あはは」

「笑うところなんてあった?」

「いや、今になってゆで卵のことがじわじわきてんの」

こういうのをギャップって呼ぶんだろうか。彼女の言うことがいちいち俺のツボに刺さっていた。