「しゃーない。俺、ガソリンもらってくるわ」
私と早坂さんを車内に残して、先生は徒歩で山道を下っていく。
「大丈夫かな? 暗いし、みんなで行ったほうが……」
「壱にいは山に慣れてるから平気よ」
「仲良しだね」
「なに? 私と壱にいをくっつけようとでもしてるの?」
「ち、違うよ!」
先生が戻ってくるまで、早坂さんと色々な話をした。
もんじゃが食べられる駄菓子屋があること。
体育のマラソンではこの山を走ること。
Wi-Fiが通ってるところがなくて不便なこと。
でも町の人たちが優しいこと。
そうこうしてるうちに時間が流れ、旭の町に着いたのは明朝五時だった。
「じゃあ、響は下りて」
それはなにもない田んぼだらけの場所だ。
「え、ここで?」
「平気よ。虫はいるけど治安は世界一いいから」
そう言って、本当に私は車を下ろされてしまった。
「わ、私はどこにいけば……」
「ただまっすぐに進んでいればいいのよ。あとはもう知らないから自分で考えなさい」
早坂さんを乗せた先生の車が走り出す。頑張れと言ってくれているようなクラクションが鳴り、私は深く頭を下げた。