「……えっと、早坂さんの彼氏?」
「は? 私がそんな切り替えの早い女に見えるの? 先生よ、先生。私と旭の担任」
「え、先生?」
わ、若い……。呆気に取られながらも「よろしくお願いします」と先生に伝えた。
「うん。じゃあ、走るよ」
車はいよいよ旭の住む町へと向かう。彼は前に山の山のまた山の向こう側だからバスも一本じゃたどり着かない場所と言っていた。
そのとおり、山道が永遠に続く。シカ出没注意なんていうカバンが見えて驚いた。
……シカって動物園にいるだけじゃないんだ。
「……あ、やべ、ガス欠」
先生の声と同時に、順調に進んでいた車の速度が落ちる。
「待って。嘘でしょ? なんでガソリン満タンじゃないの?」
「お前が三浦のために車出してって急に言ってきたからじゃん」
言い合っているふたりは生徒と先生の関係には思えない。兄妹みたいだなと思いつつ、私は「あの、なんか二キロくらい前にぽつんとガソリンスタンドがありましたけど」と教えた。