「ただいま」

家に帰ってリビングのドアを開けると、おもちゃが散乱していた。足元に転がっていたミニチュアの車を拾い上げようとすると、洗面所から未央を抱っこしたお母さんがやってきた。

「あ、響、おかえり。今ね、ちょうど粘土遊びを終わりにしたところなの。すぐに片付けるからね」

そう言って、お母さんは忙しそうにおもちゃを箱へと収納していく。

テーブルを見ると、開いたままになっているパソコンがあり、おそらく仕事の途中なんだろう。

どんなに時間がなくても、お母さんはひとりでやろうとしている。

「晩ごはんの支度もまだできてないけど、必ずするから待っててね」

「私も手伝う」

「え、でも……」

きっと私は家の中でも無理をしていた。もしかしたら一番息苦しく思っていたかもしれない。

「私ね、べつに手伝うことが嫌だったわけじゃないんだ。ただ未央が生まれてお母さんを取られたような気持ちになって、嫉妬もしてたし寂しくも思ってた」

そんなことを考えるのは幼稚すぎると思いながらも、卑屈になっていく心にあらがえずに、優しくしたい時に優しくなれない自分になってた。

「私が望んだわけじゃないのに急にお姉ちゃんをやることになって、妹なんか欲しかったわけじゃないって思ったりもした」

「………」

「でも私、お母さんに家のことを全部背負ってほしいとは思ってない。押し付けたり、押し付けられたりするんじゃなくて、協力していけたらいいなって今は考えてる」

多分、私たちにはそれが足りなかった。手と手を取り合えればよかったのに、ずっと背中合わせのままだった気がする。

「私も反省したわ。響だってまだ子供なのに大人扱いして話を聞いてあげる時間さえ作ろうとしなかった。ごめんね、響……」

「ううん。でもこれからは私もできないことはちゃんと言うよ。友達のことを優先したい時も言う。でもたくさん話していこうよ。私、話したいことがいっぱいあるんだよ。もちろんお父さんにも」

「ええ、そうね」

お母さんが涙ぐみながら微笑む。すると、「ねーね」と未央にスカートを掴まれた。私は目線を合わせるために腰を屈ませる。