私たちのいる世界はとても広い。
たくさんの人がいる中で、名前すら知らない人が多い中で、きみと出逢えたことが私にとっての大きな奇跡だった。
天気がいい中庭で、私は友達とお弁当を広げていた。飛び交っている話題は小テストの結果から恋愛ドラマの話まで幅広い。
〝右肺に欠陥がある〟
あれからもずっと旭とは連絡を取り合っている。体調を心配しながらも、今までどおり写真を送り合ったり他愛ないことを話したり、それは病気を知らなかった頃となにも変わらない。
最近、よく彼と交わした言葉の中で、ファーストフード店の一幕を思い出す。
私が写真展をやることに不安を抱いていると、旭は落ち込むことも起きるかもしれないけれど、その時には俺がいると言ってくれた。
出掛けたり、ご飯を食べたり、話したりしながら、私の傷を塞ぐ手伝いをさせてほしいと。
たしかあの時私は、旭は傷ついたりしないのかと、聞いた気がする。
彼の答えは、体にできた傷だって触ると治りが遅くなるから、傷は見て見ないふりだと言った。
私は正直そんな彼のことを、やっぱり隙がない人だと感じてた。
でも、今なら少しわかる。
旭に隙がないように思えていたのは、周りが思う自分になろうとしていたからなんじゃないかって。
自分が楽しいよりも、みんなが楽しいから楽しいって感じる優しい人だから、自然に三浦旭という明るい自分を保とうとしていたのではないかと考える。
――『なあ、俺さ、最初から響のこと強いだなんて思ったことないよ。本当はこうして泣いてくれたらいいのになって思ってた』
私もだよ、旭。
私だってきみを強い人だなんて思ったことはない。
彼自身が思う傷の塞ぎ方が見て見ないふりなら、私は目を離したくないって思う。