昨日、彼女と別れたあと、俺はひとりで中学校に向かい、暗室に写真フィルムを置いてきた。

写真展をやるために準備してる時、こっそりと彼女のことをたくさん撮った。

響は堂々としててカッコよくて物怖じもしない。けれど、本当は弱くて繊細なことを知っている。

自分以外の人のことをよく見てるからこそ傷つきやすい。

彼女が迷った時、悩んだ時、俺はもう隣にはいない。

けれど、堂々としてなくても、カッコよくなくても、怖いものがあっても、響は響だから、無理して誰かに合わせたり、偽ったりしなくていい。

そういう想いを込めて、飾っていない素のままの彼女のことを撮った。

【元気でね】

彼女からの別れの言葉は、これだけだった。

本当にたったそれだけの短い文章だけど、ここに温かさも優しさも感じる。


「……っ、」

張りつめていた糸が切れたように、ぼろぼろと涙が流れてきた。

彼女の世界に無理やり入り込んだのは俺なのに、また勝手にその世界から出ていくことを許してほしい。

本当のことを言っていいのなら、なにも考えずに心に正直になっていいのなら、俺は響と離れたくなかった。

響だけは置いていきたくない。

できればリュックに入れて一緒に連れていってしまいたい。

好きだった。誰よりも。

大切だった。きっとこれからもずっと。

幼かった十四歳。俺はなにも伝えられないまま、彼女と過ごした街を離れた。