たしかに引っ越しの提案をしてきたのは母さんだったけれど、俺はこの選択を前向きに捉えている。
行ってみなきゃわからない。やってみなきゃわからない。不安に思うのは、向こうの生活が始まってからでいい。
「俺、けっこう楽しみだよ。新しい土地でも友達たくさん作るつもりだし」
「ありがとう、旭」
後悔はない。迷いはない。流れていく地元の景色を窓から見つめているとスマホが鳴った。画面には響の名前が表示されている。
今日は予定があるから見送りに来れないなんて言っていたけれど、それが嘘だということには気づいていた。
正直、それでよかったと思っている。
友達とは笑顔で別れられたけれど、あの場に響がいたら……俺は名残惜しい気持ちになっていたと思う。