「大きな病気って……どのくらい?」

『簡単に言うと右肺に欠陥がある。一応進行を遅らせる薬は飲んでるけど、最終的には右肺ごと切除するしかないって言われてる』

「じゃあ、手術すれば治るの?」

すると、旭が一拍置いた。

『手術をしても残った左肺だけじゃ厳しいらしい。自分で呼吸ができる確率は三十パーセントだって』

頭が真っ白で、なんにも整理できない。けれど、どんなに言葉に詰まっても聞かなきゃいけないことがある。

「……手術をしなければどうなるの?」

『多分、そんなに長くない』

ドクンと、心臓が跳ね上がった。

……旭が、死ぬ? 

そんなこと考えたことはなかったし、これが現実で起きてることだと思えない。

しかし、電話から聞こえてきたのは、内容とは真逆の明るい声だった。

『大丈夫だよ。病気が見つかって二年経つけど、なんだかんだ生きてるからさ』

……二年ってことは、引っ越してから発覚したってことだ。

『本当はすぐに連絡しようと思ってたんだ。でもまさか自分でもこんな病気になると思ってなくて。だから響に連絡できるまで長く時間がかかった。ごめんな』

見えるはずがないのに、私は首を横に振る。

彼のことだから私のことを考えて連絡を躊躇ったことぐらいわかる。

私は……旭のなにを見てたんだろう。

二年ぶりに電話がかかってきて、ちょっと自分勝手だなって思ったりして。

どうせ友達に囲まれて楽しくやってるんでしょうって。

明るく楽しく過ごしてるんでしょうって、自分の環境と比べて羨ましく感じてた。

……本当に、情けない。

私は彼の悩みに一切気づけなかった。

顔も見えないのに声だけで元気にやってるって安心して、繋がっている気になっていた。