ねえ、旭は本当にこの街を離れていいの?
未練はない?
後悔はない?
私と……離れることはどう思ってる?
明日になれば、本当に会えなくなるんだよ。
おはようもおやすみもごめんねもありがとうも直接言えなくなる。
旭って呼んでも振り向いてくれない。
響って心地いい声で呼ばれても私だって振り向けない。
そのくらい遠い場所に行くってことなんだよ。なのに……。
「こっちこそ、ありがとう。住所がわかったら連絡するから」
なのに、なんでそんなに平気なの?
旭にとって自分が特別な存在だなんて思ったことはない。
近くにいたからって、自惚れてもない。
でも、散々私の世界に入ってきたくせに、あっさり出ていくなんて、それはね、ズルいよ。
ズルすぎるよ、旭。
「うん、わかった」
でも、私は思っていることを口には出さなかった。
泣かないことが、すがらないことが、問いたださないことが、自分と彼のためになると思ったからだ。
「ばいばい、旭。またね」
〝また明日〟はもう言えない。締め付けられるくらい胸が痛かったけど、私は笑った。
彼がいつも明るい気持ちにさせてくれたように、私も明るくさよならしたかった。
「おう、またな……!」
旭が私の頭を優しく撫でる。大きくて温かな手がそっと離れた時、本当にもうこれでお別れなんだと思った。
彼は眩しいほどの笑顔を残して、私から一歩、また一歩と離れる。
それが私たちの、十四歳の旭との、最後の時間だった。