店を出て、私たちは再び歩き始めた。
目的地を決めずに行きたい場所にいき、好きなものにスマホを向けた。
彼とこうやって出掛けるのは最後かもしれないのに、なにをしてもなにを話していても楽しくて、まるでデートみたいだと思った。
そして夕方になり、私たちの別れの時間が近づく。明日クラスメイトたちは旭のことを見送るためにバス停に集まると言っていた。
「響は来ないんだろ?」
「……うん。明日は用事があって」
「そっか。なら仕方ない」
ごめん、旭。本当は用なんてないんだよ。
でもちゃんと見送れる自信がないし、手も振れるかわからない。
もしかしたら寂しさで崩れ落ちてしまうかもしれない。
そんな姿を見せたら、旭が心配する。
バスにだって乗りづらくさせてしまうと思うから。
「旭なら新しい土地に行っても上手くやれるよ」
「うん。俺もそう思う」
「もしこっちに帰ってくることがあれば連絡して。あ、べつに強制じゃないからしなくてもいいけど」
「はは、なんでだよ。するする」
嘘をついて明日の見送りを断ったんだから、今日は明るくいたいって思うけれど、泣かないことで精いっぱいで言葉を探せない。
「あのさ」
「うん」
「あのね」
「うん」
「今までありがとう」
たくさん言おうとしてたことがあったのに、結局ありきたりなことしか言えなかった。