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気づけば旭の引っ越し日である前日を迎えていた。
ついこの間までセミが鳴いていたというのに、新緑は枯れ落ちて、白い息が目立つようになっていた。
「あ、やっぱり響もそれ?」
今日私たちはまたレトロな喫茶店に来ていた。以前出掛けたように街探索をしながら写真を撮り、お腹がすいたからとこの店を選んだ。
サンドイッチやハンバーグと美味しそうなメニューがたくさんあるのに、私たちはまたオムライスを注文した。
「前より俺たち堂々としてない?」
クローバーのスプーンを口に運びながら旭が言う。
「でもカウンター席はいかがですかって聞かれた時、ものすごく動揺してたじゃん」
「いや、カウンター席はまだハードルが高い」
旭は引っ越すと打ち明けてくれた時から、なにも変わらない。
私はきっと寂しい気持ちが顔に出ていると思うけど、そういうのも感じられない。
旭は……平気なんだろうか。
地元を離れるって相当なことだと思うし、引っ越すことが伝えられた学校ではみんな大騒ぎだった。
彼と仲良くしていた友達は激しく戸惑い、彼に好意を寄せていた子は泣いていた。
いつでも側にあると思っていた太陽がいなくなる。
その喪失感は言葉では語れない。
「こういう喫茶店が似合う大人になれたらいいよな」
「……そう、だね」
私もオムライスを口に運ぶ。
私は先のことなんて考えられない。
このまま明日を迎えずに、旭のことを引き止めていたい。