「猫を追いかけて神社の石段を上ったことも面白かったよな」

「旭が息切れしまくってた時だよね」

「そうそう。そのおかげで押し付けられそうになってたリレーを響が走るって宣言してくれた」

「旭がはっきり断らないからだよ」

「嬉しかったよ、マジで」

彼女との思い出は尽きることがない。

種を植えるために花壇の草とりをしたことも。

その種に芽が出た時、雨を気にして傘を差してあげていたことも。

初めて一緒に出掛けた日のことも。

響のことを好きになるには十分すぎるほどの時間だったと思う。

「これからもずっと一緒にいて同じ時間を過ごしていければいいのにな……」

俺は小さな声で、ぽつりと呟いた。

おそらく言葉とは裏腹に暗い表情を隠せていなかったんだろう。響が不思議そうに首を傾げていた。

「なんでそんなに悲しそうなの?」

ずっといつ言おうか迷っていたけれど、文化祭が終わって一段落したら伝えようと決めていた。 


「俺、引っ越すことになったんだ」

「え……?」

響は驚いたように目を見開いていた。