~旭side~
色んなことを諦めて、響が残った。
響だけは諦められなかった。
忘れられなくて、傍にいきたくて、頭の中で何度も名前を呼びながら、両手で抱きしめてた。
目が覚めると知らないベッドの上だった。ここがどこなのか、なんで寝ているのかわからない。
ぼんやりしてる意識の中で、テレビ台に置かれたスマホが目に入った。手を伸ばして画面を確認すると、俺が認識してる日付から二日が経過していた。
……あれ、クラス会は?
っていうか、響は……?
状況が整理できずに混乱していると、ベッドの周りを覆っていたカーテンが開いた。
「うわっ、起きてたの?」
俺の顔を見るなり驚いた声を出したのは早坂だった。なにやらいい匂いがすると思えば、その手に花を抱えている。
「ああ、これ綺麗でしょ? 旭がいつ目を覚ますかわかんないから、とりあえず部屋だけは明るくしておこうと思って買ってきたんだ」
早坂はそう言って、窓際に置かれた花瓶にさっそく花を生け始めた。
「あ、あのさ、ここって……」
「病院だよ。旭ね、玄関先で倒れてたんだよ」
「俺が……?」
「そうだよ。ほら、クラス会に行って響に会うって言ってたじゃん。見送るつもりなんてなかったけど気になって様子を見にいったら旭がいたから、もう本当に慌てたよ」
どうやら俺のことを発見してくれたのは、早坂だったようだ。
記憶では響と連絡を取り合いながら東京に向かう支度をして、玄関のドアを開けたところまでは覚えている。だけど、その後の記憶がまったくない。
あれから二日経っているってことは……俺はその間眠っていたということなのか?
「ちなみにここ隣町の病院だから。旭のほうがよく知ってる場所でしょ?」
俺は早坂の言葉に固まった。たしかに内装からして、俺が薬などを処方してもらっている病院で間違いない。
「……俺、喘息の薬貰いに来てること早坂に言ったっけ?」
本当は喘息の薬じゃないけど。
「教えてもらってないよ。でも知ってる。旭が重い病気にかかってること」
「……え?」
動揺してる俺とは違い、早坂は怖いくらい落ち着いていた。
胸がバクバクと鳴っている中で誤魔化そうとしたけど、この様子からして彼女はすべてのことを本当に知っているんだろうと思った。