「メイク動画をアップしてるマキちゃんですよね……!?」

「大ファンです! 握手してください!」

「はは、ありがとう。いいよ」

女の子は「わあっ」と足を踏み鳴らして興奮している。

マキちゃんって……あ。そうだ、この子みんながよく見てる動画のマキちゃんだ!

ファンの子たちが去ると営業スマイルは消えて、また無愛想に私へと視線が戻ってきた。

「もっと色々聞きたいことあるけど、私もう時間がないのよね。だから連絡先だけ教えてくれる?」

早坂さんは時計を気にしながらスマホを取り出した。

「え、連絡先って私の?」

「そうよ。他に誰がいるの? 次の電車に乗らないと本当にオーディションに間に合わないから早くして」

状況が呑み込めないけれど、急かされるまま連絡を交換することになった。なにがなんだかわからないまま「じゃあね」と彼女は改札口に向かって歩き出す。

「……あの!」

その姿が遠ざかる前に呼び止めた。 

「なに?」

「その、旭は………」

「うん、旭がなに?」

「旭は本当に用事なの?」

彼は誰よりも率先して物事を決めて、遊びに行く時だっていつも私より早く待ち合わせ場所に着いていた。

そんな旭が当日になって約束を破るなんて考えられなかった。

「本当になんにも知らないんだね。今の旭のこと」

「……え?」

早坂さんは意味深な言葉だけを残して、駅の中へと消えてしまった。