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「うーん、どうしよう」
私はクローゼットに入っていた洋服を引っ張り出して、鏡の前で唸っていた。
昨日からあれこれと悩んでいるコーディネートはクラス会当日になってもまとまっていない。むしろ、色々と考えすぎて面倒くさくなってるくらいだ。
候補として手に取ったのは、カジュアルなセットアップと、サロペットワンピース。昔はデニムとTシャツしか持ってなかったけれど、最近はよくスカートも買うようになった。
悩みに悩んで、私はサロペットワンピースを着ていくことにした。大人っぽい服装に合わせるように、髪の毛を少しだけ巻いて、赤いリップもつけた。
「うわあ! ねーね可愛い!」
階段を下りると、廊下でおままごとをしていた未央が寄ってきた。
「それになんかいい匂いがする!」
「いつもはいい匂いがしないってこと?」
「ううん。今日のねーねは女の子の匂い」
いつも女の子なんだけどなと思いつつ、褒めてもらえたことが嬉しくて妹の頭を撫でた。
「響、これから出掛けるの?」
話し声に釣られて、お母さんまで廊下に出てきた。今日クラス会があることは伝えてある。ちゃんと会話はするけれど、やっぱりまだあの喧嘩の余韻は消えていない。
「うん。夕方には帰るから」
「それならお小遣い持っていきなさい」
お母さんは事前に用意していたようで、一万円札を私の手に握らせた。
「大丈夫だよ。必要なのは会費くらいだし、会場に昼食も準備してあるみたいだから」
「それでもお財布に入れておきなさい」
「あ、ありがとう」
私は渡されたお金を見る。困ることがないようにと、きっと多めに持たせてくれたのだと思う。
愛情は見えるものじゃなくて、感じていくもの。
勝手に居場所がないなんて思っていたけれど、強がりというフィルターをかけて、愛情を見落としていたのは私のほうかもしれない。