晩ごはんを食べ終えて自分の部屋に向かう。
机の引き出しを開けて取り出したのは、一台のフィルムカメラだった。
これは自分のではなく父さんが使っていたものだ。カメラが趣味だったというより、俺の成長記録を残すために買ったものだと思う。
父さんは出掛けるたびに、これで俺のことを撮っていた。
そのうちに家の中や庭先で日向ぼっこしてるだけでも、気づけば俺はカメラを向けられていた。
俺も使ってみたいとせがんだこともあったけれど、父さんは『お前にはまだ早い』と絶対に手渡してはくれなかった。
そのぐらい大切にしていたカメラが引き出しの中に入っていることに気づいたのは、父さんの葬儀を終えてからだった。
父さんは橋の欄干から川に転落して死んだ。
警察の話では体内からかなりのアルコールが検出されたようで、それはまともに歩けないくらいの量だったと言う。
けれど俺は父さんが酒を飲むのは正月の時だけだということを知っている。
さらに高いところが苦手で、つり橋さえも一緒に渡ってくれなかったこともあった。
だから父さんが酒を飲んで、ひとりで橋にいたというのは違和感でしかない。