部屋では休むことなく、首振りの扇風機が動いている。俺はフォルダをスクロールさせながら、響との写真を見ていた。

――『……旭は好きな人いるの?』

ファーストフード店で交わした彼女とのやり取りをずっと頭で再生している。

自分でそういう話題にしたくせに、いざ聞かれると恥ずかしくて『いると思う』なんて曖昧な言い方をしてしまった。

好きな人とは、もちろん響のことだ。

なにがきっかけでと聞かれるとうまく答えられないけれど、気づいたら気になっていて、あっという間にそれが恋に変わっていた。

「旭、晩ごはんよ!」

母さんの呼びかけにリビングへと向かう。自分がいつも座っている椅子に腰かけて、チラッと居間のほうを見た。

この家には開かずの間がある。べつに鍵がかけられているわけじゃない。ごく普通の(ふすま)の部屋を、母さんは開けたがらない。

俺はたまに入っているし、母さんもひとりの時は開けているかもしれないけれど、こうして食事の時には必ず閉める。

襖の向こうには父さんの遺影がある。

父さんは俺が小学二年生の頃に死んだ。母さんからは事故と説明は受けている。

父さんの最後の顔は見せてもらえなかった。

母さんが見たのかさえも知らない。

ただなんとなく周りが慌ただしくしていて、母さんが色んな人に電話をかけていたことは覚えている。

それで、俺はわけもわからずに黒色の洋服を着せられた。

どうして、父さんの写真が飾られているのか。なんで咳払いもしてはいけないような静かな空間にいなければいけないのか。なにを言ってるのかわからないお経はいつまで続くのか。

本当になにひとつ理解できないまま、俺は父さんを見送った。