~旭side~
大切なものって本当はひとつでいいのかもしれない。
たくさんありすぎると、落としてきたものや置いてきたもの、今自分の手の中にあるものが見えにくい。
俺にとって一番大切なものはなんだろうか。
迷わずに頭に浮かんできたのは……。
『旭』
十四歳で止まったままの響だった。
横田のじいちゃんの通夜を終えて、俺は制服で畦道を歩いていた。いつもは薄暗い道も最近ではオレンジ色の明かりが各所に浮かんでいる。
「やっぱりこの時季って呼ばれやすいのかな……」
同じく制服の早坂が小さく呟いた。
この町では盆が近づくと玄関先に鬼灯を飾る。収穫した鬼灯の皮を取って網目の部分だけを残したものに小さな白熱球を入れれば、こうして丸みを帯びたランプができる。
「盆は行くんじゃなくて帰ってくるんだよ」
「でもじいちゃんは逝っちゃったよ」
「……うん」
制服には現実逃避できないくらいに線香の匂いが染みついていた。
さっきまで俺たちはじいちゃんの家で通夜振る舞いをしていた。大人たちは次々とじいちゃんのぶんのコップに献杯をして、みんな泣くよりも笑いながら思い出話に浸っていた。
「じいちゃんもしんみりされるより、ああして笑顔で送られるほうが喜ぶよね」
「……そう、だな」
俺は全然笑えなかったけど。