あれから一度も切っていない髪の毛は二十センチくらいに伸びた。

きみを想っていた月日ぶん、なんて可愛いことは言わない。でも……。

『またな』

最後に撫でられた温もりが残っているとでも思っていたのかな。

暑くて鬱陶しいだけなのに、今ではますます意地になって切ることができない。


朝起きると、時刻は十時になろうとしていた。夏休みに入ってから数週間が経過したというのに、遅刻だとぎょっとしてしまう習慣をなんとかしたい。

学校は好きじゃないし、行かなくてもいいものならば多分とっくに辞めている。けれどこうして頭はしっかりと夏休みでも登校しようとしていて、なんだかんだ言いながら自分の生活の一部になっているんだなと感じる。

「ねえ、響。お父さん夕方にはこっちに着くみたいだから、今のうちにケーキでも買ってきてくれる?」

リビングに向かうと、いつもより物が片付いていて、観葉植物もどことなく生き生きとしてるように見えた。

お母さんが言ったとおり、今日お父さんが赴任先から帰ってくる。と言っても滞在期間は三日間だけだ。

「昨日も話したけど、今夜はお寿司の出前を取って、唐揚げとサラダは作る予定だからね」

「うん。私も手伝おうか?」

「ありがとう。でも、唐揚げはもう漬け込んでるから平気よ」

「そっか」

すでにお母さんはお父さんのために化粧をしていて、オシャレな格好をしていた。

たしか前にお父さんが帰ってきたのは私の入学式の日だったから、遡って計算すると約三カ月振りだ。

私はお母さんと違って楽しみというより、ドキドキしてる。

第一声はお帰りなさい。次は久しぶり。その次は……と、考えなくてもいいようなシミュレーションばかりをしていた。

「ケーキはホールじゃなくて、美味しそうなものを人数ぶん選んできてくれたらいいからね」

「うん、わかった」

お母さんから五千円を受け取ると、「未央も行くー!」と妹が寄ってきた。

「暑いから待ってな」

「やだやだ! ケーキ屋さん行く!」

……はあ、また始まった。いくらダメだと伝えても、駄々をこねて言うことをきかない。

するとお母さんから「連れていってあげてよ。私もその間に色々できるし。あ、帽子だけは被せてね」と、こっちの意見も聞かずにまた押し付けられてしまった。

ひとりで行ったほうが早いのに……と思いながらも、未央と出掛けることになった。