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「で、何?結局付き合ってんの?」

お昼に待ち合わせたカフェで、杏奈は愛美に呆れられていた。
先日のやけ酒でちゃんと家に帰れたのか聞かれて、“広人に介抱された“と、かいつまんで話したのだ。

「付き合ってない。」

「はあ?何それ?」

杏奈の回答に、愛美は心底不満そうな声を上げた。

「てかさ、酔い潰れて家に連れ込まれてよく手出されなかったね。」

「やらしい言い方しないでよ。」

と言いつつも、それは杏奈も思っていた。
でも何もないからこそ、シャワーも着替えも洗濯機も借りれたのだ。
半分やけくそではあったが。

「まあ、私に興味ないんじゃない?」

すごく素っ気なく言ったのに、愛美はニヤニヤしながら杏奈に食いつく。

「ははーん、杏奈さん。さては恋してますな。」

「は?何でそうなるわけ?」

「興味示してもらえなくて拗ねてるじゃん。」

「失礼ね、拗ねてなんかないわよ。」

確かにあの時、何もなくてほっとしたと同時に何かあってもよかったんじゃないの?と思う気持ちもあって、杏奈自身戸惑っていた。

そういえば、

───でも偶然にも今日杏奈さんに会えた。これは良いことです。僕はまた杏奈さんに会いたいと思っていたから。

広人がそんなようなことを言っていた気がするなと、ふと頭を過る。
けれど一体どういう意味で言ったのか、杏奈には理解できなかった。