「広人さんはこれでいいの?」

「え?どういうことですか?」

杏奈の突然の強い口調に、広人は訝しげに首を捻る。
そんな広人の態度に、杏奈は詰め寄るようにして叫んだ。

「もう私と会えなくていいのかってこと。私ってそんな魅力ない?」

丁寧な言葉など使っている余裕はない。
そんなことよりも杏奈にたまった鬱憤が、勝手に口を伝って出てきた。
今にも広人の胸ぐらを掴もうとせんばかりだ。
広人はそれを軽くいなしながら、優しく問う。

「えっと、酔ってます?」

「酔ってない!」

「落ち着いてください。」

「落ち着いてるもん!」

広人は困ったように頭を掻くと、前のめりになっている杏奈から一歩離れた。
そして言い難そうに口を開く。

「お見合いのことでしたら、僕はてっきり杏奈さんから断られたと思っていたんですけど、違いますか?」

伺うように尋ねたのに、杏奈ははっきりキッパリと、

「はい、断りました。」

と断言する。
矛盾する杏奈の態度に、広人は苦笑いだ。

「ですよね。だったら…。」

「だって広人さんが何も言ってくれないから。私のことどう思ってるのか…。」

杏奈が広人の胸ぐらを掴みかかったところで、ピタリと杏奈が止まる。
疑問に思っていると杏奈は広人を押し退けて、近くの茂みでしゃがみこんだ。

「…うっ、けほっけほっ…。」

「えっ?ちょっ、杏奈さん!?」

久しぶりのお酒は怒りと共に杏奈の体を巡り、そして気持ち悪さとして出てきてしまった。
お酒に飲まれたことなどこれまで一回もない。
初めての失態が広人の前で、この場から今すぐ消えてしまいたい衝動に駆られて杏奈はその場で項垂れた。

無情にも、そんな杏奈の背を優しくさすってくれたのは、広人その人だった。