その後視力検査をしてお会計を済ませ、出来上がりを待つ。
混んでいないので30分程でできあがるらしく、ショップ近くのソファーで座って待つことにした。
目の前には自販機が置いてあり、杏奈はそれをぼんやりと見ていた。

「何か飲みますか?何にします?」

「うーん、この中で広人さんが手掛けたデザインはあるんですか?あるならそれで。」

杏奈の言葉に広人は驚きながらも、1本のフルーティーなジュースを買って手渡した。

「僕がというか、正確にはプロジェクトメンバーで手掛けたものですけど。」

フルーツが描かれたラベルは、広人のように優しい色合い優しいタッチで描かれていて見ているだけで何だか癒されるようだ。

「こういうのって想像して描くんです?」

「想像もですし、実際に現地に取材に行ったりとかもしますよ。例えば外国のフルーツだとか家庭の味というコンセプトだとして、想像だけで描かれたデザインでもいいんですけどやはり説得力には欠けます。消費者は敏感ですから、万人に受け入れられるかは難しいところですね。デザインと言ってもそこに描かれるイラストだけじゃなくて、キャッチコピーとかも含めてのことなので、やはり現地での取材は大切になります。そういう行程を経て、こういったラベルが作られます。」

思わぬ広人の熱弁に、杏奈は感心しながら聞き入った。
ラベルひとつのデザインでも、そこにはたくさんの想いが詰まっていることに気付かされる。

「すみません、何か語ってしまって。」

「いえ、素直にすごいなと思いました。ペットボトルのラベルをそんな風に見たことがなかったですけど、言われてみればパッケージ買いとかもありますしね、デザインをする上で取材は大切だと思います。」

改めてラベルを眺めてから、キャップを開けてひとくち口に含んだ。
爽やかな甘さが口に広がる。

「広人さん、私たちやっぱり同業者かもしれません。建築設計をする上で、私も取材は欠かせませんから。」

にこりと微笑む杏奈に、広人はしばし目を奪われてしまう。
はっと我に返ると、ささっと目をそらす。

「ちょっと、何で目をそらすんですか!」

「いえ、杏奈さんが、その、可愛くて。」

「は、はぁ?!」

この流れでなぜそうなるのか杏奈にはまったく理解できず、変な声が出た。

そうしている間に、広人の新しいメガネは出来上がった。