民宿に戻ると、入れ違いに門のところで小さな男の子とぶつかった。ミナトかと思ったのだけど、彼よりももう少し小柄だった。
「ごめんなさい」と顔をあげた男の子は、泊まりに来たお客さんの子供だった。

「ううん。ごめんね。痛くなかった?」と視線を合わせて謝ると、後ろから両親が「待ちなさい」と追いかけてきた。
道路に白いバンが停まっていて、一軒だけある居酒屋の送迎の車だった。
島にはタクシーがないので、お店が宿泊先まで送迎している。どうやらこの家族は今から食事に出かけるようだ。

「明日の朝でも大丈夫でしょ」と母親がなだめる。
「だって、なくなってるかもしれないよ」
「大丈夫よ」
「でも」
困っている様子を見かねて 「なにかあったんですか?」と声をかけた。
「そこの海に、貝忘れたの」と男の子が答えた。
聞けば、裏手のビーチで遊んだのだけど、集めた貝殻をいれた袋をそこに置いてきてしまったそうだ。今、気づいて取りに行こうとしたのだけど、送迎の車も来て困っている。

「じゃあ、私、取りに行ってきます」
「いいの?」と男の子が目を輝かせるので、「任せて」と元気よく答えた。