「今は、いないよ」
「いないの?」
自然と声が弾んだのだけど、すぐにハッとする。
「じゃあ、前はいたんだ」
どういうひとなんだろうと気になった。同時に胸がチクチクした。
「そうだね。そういうことを聞くということは、ハナは、好きな子でもいるのかな?」 と訊ねられ、ぶんぶんと首を振った。

「恋とかよくわからなくて」
「そう。じゃあこれからだね」と目を細めて笑った。
「好きになるってどういう感じなの?」
「そうだね。それは、ハナが好きだと感じたら、わかるものだと思うよ」
「そっかぁ。って、先生、なんか誤魔化してない?」
「誤魔化してなんかいないよ。好きだと感じないと好きなんてわからないものだからね」
「そっか」
呟いて、ずっと気になっていたことを口にした。
「先生は、今、寂しくない? ここでひとりでいて」
「寂しくはないよ。毎日、色んなことがあってね。面白いものだよ」と言うので、ほっとした。