「見せてくれるって言ったのに」

お昼を東集落にある食堂でみんなで食べようとナギサに誘われていたので、家に向かうとデッキの作業台でカイリがハナの島ぞうりを彫っていた。
声をかけられ、顔を上げる。
「忘れてた。悪かったな」
そう言うと、作業を続ける。
「下書きとかしないんだ?」
そのことに、とても驚いた。てっきり下書きがあって、それを彫っているのだと思っていたのだけど、何も描かれていない。

「最初の頃はしてたけど、今はしてない。何もないほうがいいんだ。イメージがあるとそれ止まりになって想像を超えないから。どんな線を入れるか、一秒先も知らないほうがいい」
それは、わかると思った。
ソウメイに書道を習っていた頃、自分もイメージは持たなかった。どんな作品になるのか知らなくて当たり前で、書きあがってから感動した。
だから、お手本を見て書くということがどうしても出来なかったんだ。

だけど、こんな細かい作業でも同じなんだな。そのことに余計、感動を覚えた。