「あの字も、今のハナも、発する声も、迷いや気負いがあるように感じるね。なにかになろうとしてなれない。そんな苦しみの中にいるような。そんな状態でなにかを学ぼうとするのは危険すぎることなんだよ」
返す言葉がなく、黙っていると
「僕の言っている意味は、今、わかるかい?」と訊ねたので、「はい」と頷いた。
「なら、よかった」と安心したように頷いた。

優しさが伝わると、心がもうダメだと言っているのがようやくわかった。
とても、泣きたかった。
「先生……」
ハナを我慢させていたものが溶けて、一気に溢れ出した。

「先生、ごめんなさい。私、習字、やめちゃったんだ。全然、成長してなくてごめんなさい。
私、先生がいなくなってから、頑張ったの。次に会ったときには、成長した私で会いたかったから、頑張ったの。
でも頑張れば頑張るほど、色々うまくいかなくて。 大好きだったのに、習字も家族もダメにしちゃったし。
先生の言う、素敵なひとになれなかった。先生に会いたかったのに、会うのも恐くて、幻滅させちゃうとも思ってた。私、自分がもうわからなくて苦しいよ」