クスクス笑う。
「全然。その彼が日本語を話せるから、だいぶ助けてもらったよ。海外に行くと、本当に出来ない事ばかりで、面白かったな。沢山助けられて、いい出会いばかりだったね。そうそう彼も独学で始めたと言っていたけど、繊細で柔らかい筆が印象的だったな。彼もそういうひとだったから」と懐かしそうに目を細めた。
「先生は、本当に色々勉強して、色んなひとに会ったんだね」
会えなかった6年。ソウメイはとても充実して過ごしていたに違いない。それが嬉しいのに、どこか寂しくもあった。
早く先生に会いたいと願っていたのはきっと自分だけで、彼はそのとき出会ったひと達との時間を大切に過ごしていたんだ。
自分ができていなかったのは、そういうことだったのかなと、比べて考えてもしまう。
「そうだね。でもいちばん学んだことは、日常の営みの大切さかな」と微笑んだ。
「日常の営み?」
「うん。僕は、家のことなどやったことがなかったからね。一人暮らしもルームシェアもしたことがなければ、自炊もしたことがなかった。そういったことを、ひとつひとつ丁寧にやっていくと、見えてくるものがあって、わかってくるんだよ。それがすごく今の生活を支えてくれているものだとわかるよ。その瞬間、瞬間に自分がどう在るか。それだけなんだなって」
どういうことだろうと、ハナは一瞬で、ソウメイの言ってることが理解できず頭で考えた。