「先生のお家、シンプルだね。書道教えてもらったお部屋を思い出すな」 と辺りを見回す。
「そのほうが落ち着くのかもしれないね。ハナはどう? こっちの気候はなれたかな?」
「うん! 日差しはきついけど、東京も夏は暑かったから。それに家の中はエアコンあって涼しいしね。先生は、那覇に何しに行ってたの?」
「個展の打ち合わせで行ってたんだ。兄さんが、花の先生をやっているんだけど。沖縄のホテルの20周年記念のイベントで兄さんと僕の個展を開きたいという話があってね」
「そうなんだ。先生、もう個展とか開かないんだと思ってた」
「そうだね。個展を開くのは6、7年ぶりかな。誰かに見てもらうというより、必要な人に作品が届けばいいと思ってここ数年、制作していたからね。個展というものを考えてもいなかったんだ。今回はご縁をいただいたまでだよ」
「じゃあ、また作品、沢山書くんだ?」
わくわくして自然と声のトーンがあがった。
「そうだね。まだどういうものにするか決めてもいないけど」
「たまに見に来てもいい?」
「うん。遊びに来るといいよ。ハナも、気が向いたときに、ここで作品を書いたらいい。カイリくんはたまにそうしてる」

そう言われて、ハナは黙って目を伏せた。
「書道は、続けてるの?」
静かに問いかける。
やめてしまった。だけど、もう一度、書道を始めたいと思ってる。 だから、もう一度、教えてもらえませんか?
そうお願いしようと思っていたのに、声にならない。
自分の心臓の音がとても大きかった。