「お昼食べたらかな」
「じゃあ、先行ってて。遅くなりそうだから」
「わかった」
「お前、その趣味悪いTシャツ着て行くのか?」と怪訝そうに言うので「着て行かないよ!」とつい答えてしまった。知念のおじぃが横で目を丸くし、悲しそうな顔をしたので失敗したと思った。
「おじぃ、ごめんなさい! カイリがああ言うから、つい!」
「大丈夫ば。次はでーじイケメンのにするからよ」と前向きなことを言ってふっと笑うと、哀愁を漂わせた背中を向けた。
カイリはそれを見て、ふっと噴き出した。ちょっと意地悪をされた気がするけど、心のどこかでほっとしていた。
昨日のことなど、何も気にしていないようだ。
さっぱりしていて、清々しい。カイリのこういうところは、嫌いじゃない。
むしろ、ちょっと憧れるところだ。
出かけ際、書道鞄を持って行こうかと少し悩んで、結局、手にしなかった。
自転車で昨日の道まで走り、少し行くと、赤瓦の古民家が見えた。