夕食やお風呂をすませて、寝る準備をした。
風にあたろうと、縁側に腰かけているとヤモリの鳴き声がする。
夕方のことを思い出し「頭が冷えたな」と呟いた。
ソウメイの教室をやめてから、別の書道教室に通った。
お手本があって、それを見ながらその字を真似て書くような教え方をするところだった。
ハナは感じるままに書くと、お手本通りにしろと直された。
それでも我を通すと、なにも教えてくれなくなった。
好きにやっていいと言われたけど、見離されたような気持ちになった。
ハナがそうでもないなと感じている者のほうがひいきにされていて、悔しかったし、何がいいものなのか段々とわからなくなっていった。
それでも続けていたのは、ソウメイのいう素敵なひとというものになりたかった。成長して喜ばせたいし、そんな自分になりたかった。
だけど、続ければ続けるほど、書に触れる喜びが感じられなくなってしまうだけだった。
代わりに苦しみだけが強くなって、ソウメイに便りが届かなくなったことをきっかけに、筆を置いてしまった。
だけど、本当はもう一度味わいたかった。
ソウメイの教室に通っていたあの頃の自分がいちばん好きだったからだ。
あのとき感じられていた清々しさや、あったかさ、そういったものをまた感じながら自然と湧きだつものを書で表現ができる自分に戻りたかった。
あの頃の自分のままでいられたら、家族や大切なものを失くさないですんだかもしれない。