「書いてない」
「え?」
「書いてない。書けなくなっちゃったの。書こうとすると、自分のこと嫌になっちゃって、やめたの」
「……何それ。お前、天才にでもなりたいの?」
「は?」
「自分が嫌になるって、自分がもっとできると思ってる奴の言葉だから」
「それはあるかもしれないけど。それだけじゃないよ」
「ふうん。よくわかんねー」
「感がいい人にはわからないよ。出来てたことが出来なくなる感覚なんて、わからないでしょ?」
言いながら胃の辺りが、熱くなるのを感じた。

「自分が感がいいとか思ってないけど。まあ、感がいい奴に出来なくなる感覚をわかれって言うのは無理あるだろ。そんな感覚ないんだからわかんねーよ。そもそも、出来ないことをひとにさせようとしてるってこともわからない奴は、出来なくなって当然じゃねーの?」

興味もなさげに言うと、カイリはペダルをこいだ。
ハナは惨めな気分になって、たたずむ。
口に出してみたものの、カイリから返って来た言葉は、全部が全部、自分でも思っていたことで、何も言い返せなかった。